なぜ高齢者は避難しないのか?と聞かれたら、多くの人は「高齢者は膝や腰が痛いから、避難することができない」「避難中に怪我することが怖い」などの答えを答えるかもしれません。
まったくもってその通りです。が、今回の記事では「なぜ高齢者は避難できないのか」でなく、「なぜ高齢者は避難しないのか」についてを書きます。つまり、肉体的に避難できない理由でなく、心理的に、なぜ避難しないという選択を取るのかという理由を書いていきます。
読めばおわかりになると思いますが、避難しない心理は高齢者に限らず、すべての人に対して適用されることです。
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高齢者でなくても、人はなかなか避難しない。
災害や避難指示、警報を甘く見積もり、重視しない。
たとえば、1982年の長崎豪雨の時のように、それ以前に何度か大雨警報が発令されてはカラ振りに終わったという経験が、新たに発令された警報の深刻度を減少せしめ、その結果として多くの人々が避難行動などの有効な災害対応行動をとらないという事態を生み出す。
高齢者に限らず、そもそも人はあまり避難しません。避難の指示や命令が発令されても、実際に避難する人は50%を超えることはないというデータもあります。*1
安全な日常生活に慣れてしまって、非常事態が起きても即応ができないことや、避難指示や命令を自己判断で軽視してしまうことが理由として挙げられます。
正常性バイアスが働いてしまう。
「大邱地下鉄放火事件」で画像を検索すれば、火災が発生し、煙が立ち込めている電車内で、人々が避難もせずじっと席に座り続けている写真が出てきます。
2003年2月、韓国大邱市の地下鉄で放火事件が発生し、192名の方々がお亡くなりになりました。地下鉄職員同士の連携ミスや、避難指示の遅れなど、いくつかの原因が重なったことが原因です。
注目すべきは、火災が発生し、煙が車内に充満しているにも関わらず、避難もせずじっと車内の席に座り続ける人々がいたという事実です。
なぜ避難しないのか?原因を専門家が説明するときに、正常性バイアスという言葉が使われます。 *2
バイアスとは、偏見とか先入観という意味です。正常性バイアスとは、普段とは違うことが発生しても、問題視せず、普段と同じ日常の一部だと決めつけることで心を守ろうとする人間の心理傾向のことです。
普段と違う異常なことが起きたとき、人はストレスを感じます。それを解決しなければいけないと考えたらいろいろと面倒です。
なのであえて異常事態を正常な日常の一部と決めつけ、ストレス源から目をそらし、なにもしない自分を正当化し、心の安定を図ろうとしてしまうのです。
夜間に災害が起こった場合は、なおさら避難しにくくなる。
情報行動は一般に夜間には不活発化し、加えて消防や警察等の防災組織の行動は夜間には勤務編成の都合で低下し、さらに、住民の移動行動は暗さや場合によれば寒さなどの物理的理由で不活発化する。
夜間は役所の職員や消防、警察などの人手が薄いです。更に夜間、外は暗くて情報を収集しにくいです。
また冬の時期は外が寒かったり、雪道で移動が難しかったりするので、昼間に比べて避難が難しい場合があります。
その結果、避難せずに家の中でじっとしていようという判断に至りやすい傾向があります。
高齢の親を災害から守るには?
災害時要援護者登録制度に登録する。
高齢の親を災害から守るうえで、手っ取り早くてすぐに行うことができる方法として、災害時要援護者登録制度があります。
これは前もって自分の親の情報を自治体に届け出ることで、災害発生時に親を自治体や地域の人に守ってもらいやすくする制度です。
詳しくは、親が住んでいる自治体名と「災害時要援護者登録制度」をあわせて検索してください。
自治体によっては、災害時だけでなく、日頃の見守り活動などもしてくれます。
ハザードマップを確認する。
ハザードマップとは、災害発生時にどの地域にどういった被害が発生する可能性があるかをまとめた地図です。お住まいの地域の市町村名と「ハザードマップ」をあわせて検索すればでてくると思いますが、こちらの国土交通省のサイトを活用してもよいでしょう。
自分や親が住む地域が災害に弱い地域かどうか前もって知ることで、日頃から危機感をもって、災害に対する準備を行いやすくなります。
地震に強い建物に引っ越しをする。
阪神淡路大震災で私たちが目撃したのは、倒壊した古いビルや老朽化した木造家屋とは対照的に、新しく建てられたビルや木造住宅の頑健さであった。直下型地震で、死者の多くが圧死によるものであったことを考えると、早朝の5時46分に、どのような家で眠っていたかが、生死を分けたと言えるだろう。
地震発生時に家が潰れてしまったら避難のしようがありません。
もしもあなたや親が住んでいる建物が大型地震に耐えられるか不安であるなら、耐震面で家を強化するか、引っ越しをすることも一つだと思います。
親を安全な物件に引っ越しさせるとして、どこに引っ越しさせるべきか?
親と同居することは、別の記事でいずれ書くつもりですがおすすめしません。大人同士の同居は、親子といえどお互いに強いストレスがかかります。私が昔関わった高齢者も、子どもと同居した結果、喧嘩が絶えず、家出未遂をしてしまいました。
(2024年5月22日加筆。同居を勧めない理由についての記事を書きました。)
施設入所も、多額のお金がかかる場合がありますし、入ってからいろいろと不満が出る場合があるので、慎重になる必要があります。もちろん良い施設もありますが、入居されてから「こんなはずじゃなかった」という声を聞くこともあります。
親の状態にもよりますが、お一人ぐらしが可能であるならば、子どもの近くに引っ越しをすることも一つだと思います。
高齢者の場合、階段の上り下りがしんどいことが多く、2階建ての一軒家を必要としていないことが多いです。また、大きい間取りだと掃除が面倒と感じる高齢者もいます。若いころのように大きい物件を必要としない分、物件の料金を抑えられると思います。
耐震面で安心ができて、子どもの近くの物件を本人と一緒に探すのもいかがでしょうか?
近所の人とつながる。
災害時には、遠くの親戚よりも近くの他人の力が必要になります。
前もって近所の人とつながりをつくれていると、いざというときに協力関係を築きやすくなります。
どうすれば近所に知り合いや友達をつくることができるのか?
いろいろと方法はあるのでしょうが、地域の民生委員と知り合いになるのも、近所の人とつながりをつくる方法の一つです。
民生委員とは、民生委員法に基づいて厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員です。地方公務員といっても多額の給料をもらっているわけではありません。ボランティアで地域の活動をしてくださっている地域住民です。
自治体によって民生委員の活動は異なりますが、多くの場合、民生委員はお一人暮らしの高齢者や老老世帯の高齢者の見守り活動をしてくださっています。また、中には民生委員や地域住民がお弁当を配りながら、見守り活動をしている自治体もあります。詳しくはお住まいの市区町村にお問い合わせください。
また、自治体町内会が主催されているサロンやイベントなどに参加することも、地域に知り合いをつくることにつながります。そういった情報は、地域の掲示板に掲載されています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。よかったらこの記事を家族や友人とシェアしていただいて、これからのシルバーエイジを考えるための材料にしていただけると嬉しいです。